11.4.15放送

「一寸の虫」

(鬼平犯科帳スペシャル)

Key Word : 愛情の受け取り方


 火盗改メの密偵仁三郎は、かつて船影の忠兵衛配下で共にお盗めを働いていた鹿谷の伴助に会い、ある計画を持ちかけられる。忠兵衛の隠し子が女房としておさまっている菓子舗・橘屋に押し込み、皆殺しにしてしまおうという計画だ。忠兵衛は本格的な盗賊であり、押し込み先で女を犯した仁三郎や、人を殺めた伴助は、きつく罰せられ、一味から追い出されていたのだ。怨みを晴らそうと意気込む伴助に対し、忠兵衛への感謝の念と尊敬の念を今も持ち続ける仁三郎は、自身の手で伴助を仕留め決着を図ろうと心に決める。

 ところが、伴助と別れたその姿を、火盗改メの同心・山崎庄五郎に知られてしまう。仁三郎の思惑とは正反対に、庄五郎は手柄を独り占めするために画策を始めた。一方、火盗改メの長官、長谷川平蔵は、その押し込み先である菓子舗・橘屋を訪ねていた。平蔵もまた、橘屋の周囲にある違和感に気づき動き出す・・・


 仁三郎と伴助。同じように掟を破り、同じように船影の忠兵衛に罰せられ放逐された二人。忠兵衛の愛情の受け取り方は両極端で。方や煮えくり返るような怨みを抱き、何年も何年も復讐の機会を窺い。方や怨みなど微塵も持たずに、むしろ感謝の想いを抱く。この差はどこからうまれるのでしょうか。忠兵衛という本格的な大盗賊の首領ならば、きっと部下の性格や懐柔に何が必要かなど、良く分かっている筈なのに。

 いや。きっとこれは平蔵においても一緒ですね。あれほどの愛情・情けを部下にかけていたとしても、ちゃんと響く相手と、まったく響かない相手が居るのだから。そんな響き方の違いが一つ、表現されている、そんな作品だと思うのです。一寸の虫は。


 さて。肝心の本放送の方は、いくつか原作とは違う仕掛けを用意しているようですが・・・何だか事情だの人情だの情に訴える伏線が増えてしまった印象を受けてしまいます。鬼平の原作に脈々と受け継がれている「人の善悪は紙一重なのだから」という流れが薄まってしまわないかなぁ。などと思いつつ。

 かつて目にした「一寸の虫」と、果たしてどんな違いがあるのか、見比べながら見てみたいと思います。





鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第18巻,第4話

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