10.6.18放送

「高萩の捨五郎」

(鬼平犯科帳スペシャル)

Key Word : 人の親


 長谷川平蔵の見回りのお供をしていた相模の彦十は、昼餉のため平蔵と共に立ち寄った茶屋「万常」で、高萩の捨五郎の姿に気づいた。本格的なお盗めを信条とする切れ者の捨五郎を売る事に若干の負い目を感じながらも、彦十は平蔵へこのことを伝え、平蔵はさっそく彦十と共に捨五郎の尾行を開始した。

 ところが、捨五郎の目の前で、農家の息子が武家に小便をかけ斬られかかる事態が起きる。助太刀に入った捨五郎は、その武家に斬られて傷を負う。やむなく捨五郎の助太刀に入った平蔵は、予定を変え、面の割れている彦十を使って捨五郎の懐に飛び込んだ・・・。


 人の親とはどんな存在であるべきなのだろう。

 子を命がけで護ることは極当然の事だとしても、ただ甘やかして子の側に居る事が親では無い筈。知的障害者らしい農家の息子を、必死にかばった辰造は。自身も斬られながら、助太刀に恩義を感じ捨五郎の元へ引き返して来る。斬りかかった、今をときめく御側衆戸田肥前守の馬鹿息子と、心悩ませる父はどうだろう。平蔵も若い頃は放蕩無頼の日々であり、決して戸田肥前守の息子を咎められる立場では無い。当時の、父の想いを、自身と息子辰蔵の間に置き換えては苦悩する日々だろう。


 立場は違えど皆父親なのだ。


 戸田肥前守に世話になった恩義だけで肥前守の息子に情けをかけるだろうか。きっと将来、同じ将軍家を支える戸田家の当主として、この息子が育ってくれる事を切に願って。父親の立場で、彼に縄を掛け経歴に傷を負わせる事だけは避けたんじゃ無かろうか。そんな気がするのです。


 さて。肝心のTV放送の方はというと、「妙義の團右衛門」と「高萩の捨五郎」と二作品を合わせた話になっているとか。19巻、20巻の作品ですから、いずれもかなり後半の作品になります。「妙義の團右衛門」での馬蕗の利平治役を捨五郎が担う形になるんでしょうね。だとすると、タイトルに逆らって「妙義の團右衛門」を取り上げるべきだったかもしれませんが、あえてこちらを主眼に据えてみました。

 もう一つ気になるところが。なにせ「妙義の團右衛門」は鬼平作品中でも比較的少数派で、一部敗戦ではなく平蔵の完敗に近い負け戦です。負け戦で閉じるのか、勝ち戦に変えた物語になっているのか、たぶん後者なんだけれど、前者を見たいなぁ・・・。





「高萩の捨五郎」,鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第20巻,第5話
「妙義の團右衛門」,鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第19巻,第2話

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