今回は平蔵の右腕とも言うべき与力佐嶋忠介の、叔父の主家に起こった災難について。
二千石の大身旗本横田大学義郷の嫡男、千代太郎が誘拐され、
同時に権現様(徳川家康)御拝領の家宝、新藤五国光が奪われる話である。
平蔵は火盗改メ長官自らの命がけの働きにより、非常に疲れていたが
疲労の原因はそれだけでない。お金である。
役目がら、こころきいた密偵をつかい、金を惜しまず、
江戸の暗黒面からの情報を絶えず得ておく必要がある。
本来火盗改メは加役(臨時の役)であるはずなのだが、平蔵はいわば本役であり、
家に伝わる刀剣などを売り、捜査の費用とすることも多々ある。
配下のものは平蔵の胸の内をくみとり、妻の内職で自腹を切って捜査に利用する。
平蔵はそれが嬉しくもあり、辛いのでもある。
最後に平蔵は、礼金の二百両を受け取る。
なぜ金を受け取ったかという疑問。
配下の苦労に、もう耐えられなかったのか。
それとも金の魔力に負け、平蔵自身の苦労が嫌になったのか。
「このようなことを、あえてするおれを・・・・・・おぬしの御頭を、おぬしは何とおもうな?」 この平蔵の言葉に佐嶋が流した涙は、なんだったのか。