肴 酒
は は
有 五
合 合
せ ま
一 で
品
の
み
こんな木札を掲げているのは、駒込はずれの権兵衛酒屋。
ちょっと癖のある酒屋の亭主はどう見ても、昔武士であったと思われた。
長谷川平蔵が従兄を訪ねた帰りにこの居酒屋に立ち寄った時
一つの異様な視線を感じる。
その視線は平蔵ではなく、酒屋の亭主に向いていたのだ。
店が閉まった夜更け過ぎ、曲者は酒屋を襲った。
助けに入った平蔵は、威嚇のために名乗ったのだが
曲者と共に店の亭主が、手負いの女房を捨てて姿を消したのである。
権兵衛酒屋という、たった一つの手がかりをめぐり綱引きを続ける盗賊改メと曲者。平蔵は、この手がかりからさらなる手がかりを得ようと知恵を絞り、曲者共は、この手がかりに関わる人間を次々消しにかかる。ヒントの小片は増えるのだが、ナゾは一向に解決しない。
が、ある時このバランスが崩れ、盗賊改メが機先を制したのである。
長編の良さ、多くの伏線が一気に一つになる瞬間である。
ちなみに題名の「鬼火」とは、ひとだまのこと。
ところでこの話に出てくる高橋勇次郎、この後も平蔵の手足となるのだが
結構お気に入りの浪人さん。
高木軍兵衛といい、この高橋といい、のほほんとした人、いません?
鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第17巻,特別長編
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