今回は火盗改メ随一の臆病者、同心川村弥助の話。
川村の妻さとが実家からの帰りに襲われ、惨殺されたという事件を通して
川村の成長を描いた物語。
川村弥助は火盗改めにて「勘定掛」を勤めている。
体は相撲取りのように堂々としており、決して荒々しい役をこなしているわけではないが、
机に向かえば実に様になる。
ところが川村は根っからの臆病者で、雷に驚き失禁するという失態をしでかす。
それ以来「泣き味噌屋」と呼ばれ、同僚からは同情されつつ馬鹿にされ、
本人もそれを気にしつつ、御役目を続けていた。
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平蔵自身は川村の能力を買っており、
「・・・いつなんどきにても、帳簿を一目見れば、たちどころに御役目の上の
金の出し入れによって、与力・同心の働きぶりまでが、わかるようになって
いる。・・・通常二人・三人にてつとめる勘定掛が、わしのところでは一人
ですむ。川村は二人前も三人前もはたらいていることになり、その人数だけ、
外の御役目へまわしていることにもなるわけじゃ。」
ここまで言われて、感激しない人はいないと思うが、これを聞いた川村は
(私は、長官のためになら、いつでも死ぬ・・・・・・)
(だが、死ぬのは嫌だ・・・・・・怖い・・・・・・)
とゾッとなっている。
^^
ちなみに今回の題名の「泣き味噌屋」だが、
泣き味噌とは「泣き虫」のことである。
当然こんなあだ名を付けるのは、「うさぎ」こと木村忠吾くらいだろう。
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わたしが、鬼平を好きなのは、こういうところ。
現実にありそうで、人情にあふれ、愛嬌があって、
人が生き生き物語一杯に広がるところ。
固定観念なしに、人を様々に描くところ。
リアルな盗賊との対決の描写に混じった、こうしたリラックスして読めるところ。
鬼平のこういうところがすごく好きだ。
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