11.9.30放送

「盗賊婚礼」

(鬼平犯科帳スペシャル)

Key Word : 伝統と革新


 小石川の薬種問屋「山城屋文蔵」に侵入した傘山の弥太郎一味は、まんまと金七百八十余両を奪って逃走に成功した。本格的なお盗めを前にして、長谷川平蔵はじめ火盗改メはなす術もなく途方に暮れる。

 そんな見事なお盗めを果たした弥太郎一味に、江戸でのお盗めに打って出たい鳴海の繁蔵一味が繋ぎをつけた。じつは先代の弥太郎と先代の繁蔵の間に、一つの約束があったのだ。二代目弥太郎と、先代繁蔵の娘、お糸との間の婚約。二代目繁蔵の狙いを知り、その殺生をいとわぬ畜生ばたらきを嫌がりつつも、先代弥太郎の約束を果たさんと、二代目弥太郎はお糸との祝言を受け入れた。

 ところがそのお糸には、繁蔵の息がかかっていたのだ。繁蔵配下の長嶋の久五郎は、先代弥太郎に受けた恩義を今こそ返そうと、その繁蔵の狙いに立ち向かった・・・。


 家業を継ぐこと。俺には経験のないことで、その損得や苦労はうかがい知ることもできないけれど。

 継いだ家業を営むにあたって、時代に合わせて伝統的手法を変えることと、変わらずに伝統を守り続けることの、その選択こそが、一番重要で一番難しいことだろうと思うのです。

 今回先代の後を継いだ二人の盗賊、鳴海の繁蔵は流行りの新しい風を家業に持ち込み、傘山の弥太郎は伝統的な掟を守り抜くことで、仕事を続けた形になります。どちらが成功し、どちらが失敗なのか。どちらが優れ、どちらが劣るのか。何度か考えてはみたのですが・・・結局どちらも平蔵の縄にかかったわけで、家業は潰えたんですよね。鬼平の世界では本格的な盗賊を持ち上げていますけれど、本当のところはどちらなんだろう。今の世の中の風潮と並べてみると、なんだか複雑で、ついつい考え込んでしまいます。


 さて。もともと火盗改メとしてはほとんど何もできなかったこの話。平蔵が目の前を通らなければ、恐らく弥太郎が自首することも無かったわけで・・・。例によってTV放送の方はアレンジして来ているようですが、本当に平蔵が一瞬しか出ない、盗賊の魅力あふれる作品というものを、いつか見てみたいです。

 そういえば、弥太郎や勘助老人に対して平蔵は密偵へ転向するよう誘わないんですよね。本格的盗賊の後日談がない話も少し珍しい気がしますが、さてさて。




鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第7巻,第7話

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