97.4.16放送分

「木の実鳥の宗八」


Key Word : 迷い




今回は木の実鳥の宗八という老翁が、旗本、宮口伊織の懐から紙入れ(財布)を
掏摸とったことから始まる。

宮口は五百石の平蔵と同じ御先手組の頭であるが、女に迷い、
盗賊の片棒を担がされることになる。
ところが、盗みに入る商家の絵図面の入った紙入れを宗八に盗られ、
その一部始終を平蔵に目撃された。
宗八自身は絵図面には目もくれず、さっさと逃げるのだが、
捨てた図面が平蔵の目にとまり、事件が発覚する。


この物語中では、平蔵はあまりさえを見せていない。

宮口が同じ御先手という、ある種の仲間感覚が勘を鈍らせ、
宮口が盗賊の片棒を担いでいるという明らかな事実に、推理が及ばない。
平蔵の妻久栄の言葉で初めてそれに気づく。
捜査にも焦りを伴い、早まって宮口に絵図面を見せてたりしてしまう。

当然平蔵が迷っているときには、結果はあまり良くないことが多い。


平蔵が失敗を繰り返すのは滅多にあるわけではないが、迷いを伴うことは多々ある。
こういった話を通して、実は鬼平も人の子、ということを何気なく見せている
のだと、思う。
















ところで真の盗賊の守るべき掟と同じように、掏摸にも三カ条の掟が存在する。
一に、貧乏人から掏摸盗ってはならぬ。
二に、刃物を使ったりして、汚い業を仕掛けてはならぬ。
三は、いかに金が入っても、地道な暮らしを外してはならぬ。
宗八自身もこの掟に従い、掏摸に誇りを持ってお勤めをしている。
題名の木の実鳥というのは猿のこと。

原作では「春雪」という題名である。
この題名の方が、味があって鬼平らしいと思ったのだが。



鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第13巻,第5話

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