09.7.17放送

「雨引の文五郎」

(鬼平犯科帳スペシャル)

Key Word : 牢破りの宿命


 長谷川平蔵が本所へ巡回に出た折のこと、偶然「隙間風」と異名をとる雨引の文五郎を見かけた。一昨年、散々江戸を荒らし、さらには自身の人相書を火盗改メに送り付けた上で、まんまと逃げおおせた文五郎。その腕の立つ盗賊を捕らえる機会が目の前に転がり込んできた平蔵は、さっそく尾行を開始した。文五郎を追うもう一人には気づかずに・・・。

 そのもう一人の追跡者は、文五郎が小径へ曲がった機会を逃さず文五郎を襲う。やむなく平蔵は火盗改メの名を名乗り、見事その追跡者を捕らえたが・・・文五郎は見事に逃げ失せた。なかなか口を割らぬ追跡者だったが、盗賊上がりで今は平蔵の密偵を務める舟形の宗平は、その顔を知っていた。落針の彦蔵、かつて西尾の長兵衛配下で雨引の文五郎と共に右腕を争った盗賊だったのだ。平蔵は一つの賭けを仕掛け、舟形の宗平は老体にむち打って落針の彦蔵に牢を破らせる・・・。


 その約半年後。二年振りに江戸に舞い戻ってきた犬神の権三郎は、立ち寄った蕎麦屋で運悪く火盗改メの与力・佐嶋忠介と遭遇し、捕らえられてしまった。ところが、今度は火盗改メの物見櫓からの出火に乗じて、権三郎は押し込められた牢から逃亡することに成功したのだ。

 何者かの、しかも火盗改メの役宅の構造を良く知った人間と思われる、協力者。平蔵はその協力者を捜し出すために、密偵を含めた総員に火盗改メへの出仕を命じたのだが・・・密偵の一人がそこに現れなかった。雨引の文五郎だ。先だっての件で捕らえられた文五郎は、じつは目こぼしを受け、そして平蔵の見立て通りに密偵として数々の事件を解決していた。しかしその平蔵の顔に泥を塗り、文五郎は権三郎の牢破りを働いていたのだ・・・。


 牢破り。いくつか作品中に出てくる事件ですが、もともとは大罪です。事が公になれば、本来は平蔵の首一つで収まる話では無いのです。

 「罪を憎んで人を憎まず」が信条だとすれば、少しは理解できるでしょうか。けれども「罪は罪」という大原則も存在する訳で、もしこの範が緩めば、ねずみ小僧は義賊だから正しいことになります。

 果たして、そんな牢破りを二つも重ねて進む物語というのは正しい方向性なのだろうか・・・と考えずにはいられません。こうして必ず情や義理といった個人を優先して罪に罪を重ねて進む話は、最後の最後に義理堅い密偵・盗賊などの落命がついて回りますね。


 さて。フジのサイトにもあるように、今回は「雨引の文五郎」と「犬神の権三郎」を合わせた話になるようです。といってもですね、原作でのタイトルは「雨引の文五郎」と「犬神の権三」ですよね。

 盗賊の名前がタイトルに使われることは良くあることだと思うのですが、前者のように名前をそのまま略さない場合と、後者のように略す場合があるようで。池波さんが意味を込めて変えているのか、はたまた単に読みやすさや言葉の調子に由来するのか・・・興味がある方は調べてみてはいかがでしょう。




「雨引の文五郎」,鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第9巻,第1話
「犬神の権三」,鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第10巻,第1話

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