01.5.15放送

「一本饂飩」


Key Word : 信頼




そう、うさぎのピンチである・・・(笑)


剽軽で、うさぎ饅頭そっくりなことから、
平蔵にまで「うさぎ!」などと呼ばれる、兎忠こと同心・木村忠吾。
ある日見回りの途中、
好物の一本饂飩を食べようと、海福寺門前の茶屋・豊島屋に寄った。

すると、妙に気持ちの悪い男が同席を願い出る。
「うす気味悪い・・・」そう感じながら茶屋を出た忠吾だが、
そのまま消息を絶った。
(あの御頭がなさることだ。
 きっと・・・きっと、おれを捜し出してくださるにちがいない。
 御頭はきっと、海福寺門前の一本饂飩へ行ってくれるだろう。
 すれば、あそこの年増の女中が、
 おれの顔を見知っているはずだから・・・)


忠吾はそれだけを頼りに、絶望的状況下を耐え忍ぶ。
平蔵への絶対的信頼感。


忠吾が最後に平蔵に向けた、
「私は、操を、まもりぬきました。まことでございます」という言葉に
「知れたことよ。おれには、すぐわかった」と答える平蔵だが、
本当にわかっていたかどうか定かではない。

ここには、事実がどうこうということではなく、
二人の間の何にも代え難いつながりが、
そっと込められている気がしてならない。
ところで、
平蔵の足取りそのものをズバリ当ててしまった忠吾。

さまざまに言われているのだが、
ここまでの勘ばたらきができるではないか・・・
そう思うと多少驚く。

徐々に同心としての力をつけているのか、
それとも平蔵という人間を良くわかっているからなのか、
どちらにしても興味深い。
なお、この巻の巻末には、
鬼平のテレビ放送誕生時のエピソードが収められている。
当時産まれていなかった石けんにとって、こういう話は貴重であり、
同世代の鬼平ふぁんには是非是非読んで欲しいと思う。


鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第11巻,第1話

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