98.9.16放送

「五月闇」


Key Word : 過去の重み




火付盗賊改方の腕利き密偵伊三次と、岡場所の女およね。およね自身が盗賊改メの手伝いをしたこともあり、長谷川平蔵の媒酌で夫婦になるのを勧められたほどの仲である。

このおよねのいる岡場所に、同じ「いささん」が遊びに現れた。胸に長い傷があるこの男は、実は伊三次とは旧知であり、2人の間には過去があった。
男を急ぎばたらきの兇賊と知る伊三次は平蔵にこの事を報告するが、過去まで全て語ることはできない。

歯切れの悪い伊三次に全権を委任する平蔵。
困惑する伊三次。
そして事は急展開する。

鬼平に何度か出てくるフレーズがある。

女という生きものは、
過去(むかし)もなく、将来(ゆくすえ)もなく、
現在(いま)があるのみだ
逆に言えば男には、現在だけでなく将来や過去があるということ。過去を引きずってしまった伊三次は、自分の過去を支えきれずに命を落とす。


この一件が終わり、伊三次の枕頭に詰め切ろうとする平蔵。あの平蔵だ。文章中に一言も書かれていないのだが、こうなることは推測できたに違いない。伊三次を救う手だてを思いつけなかった平蔵。そして平蔵はこの後の事件にて伊三次の名を呼び、また深く心を痛めることになるのだ。

さて、うさぎこと木村忠吾とこの伊三次は、歳も近く大の仲良しであった。忠吾は平蔵の許しを得て、伊三次を自分の菩提所へ葬り、何度か足を運んでいる。



鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第14巻,第5話

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