| | 腕利きの女賊鯉肝のお里は、一仕事を終えた骨休めをしながら、元盗賊長虫の松五郎こと煙管師松五郎宅に居候し、ブラブラしていた。 
 ある日橋のたもとで若い男が腹を空かせて倒れていたので、飯をおごってやった。ところがこの飯や「大根や」の女房が、お里が若い男をたぶらかしていると思いお里にくってかかる。
 お里も啖呵を切って店を出るのだが、その時女房にたたきつけた一両小判を見ていた盗賊改メの密偵おまさは、町女房にできる行為ではないと感じ、お里をつけるのだった。
 
 
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 | 鯉肝という異名は、鯉肝が煮ても焼いても食えないところから来ている。 鯉をさばいたりしないので実際の所はわからないが、鯉の胆嚢をつぶしてしまうと、苦くて臭くて大変らしい。
 
 
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 | この一件で一つ家に寝起きして捜査にあたった大滝の五郎蔵とおまさは、ある日結ばれることになる。この話はここに注目するしかないでしょう。 
 幼い頃から平蔵にあこがれ続けたおまさ。
 かなわぬ恋。
 鬼平の世界にはあまり現れないせつない心。
 
 二十年も同じ人を思い続けるなんて、すてきなことですね。
 五郎蔵もおまさだけでなく、平蔵の眼鏡にかなうのだから、相当な男です。
 
 
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 | さてさて平蔵さんは今回も最後に茶目っ気を出します。 お里捕縛後しばらくたったある日、市中見回りで出会った松五郎に向かって
 
 
 
「老爺。鯉肝のお里がいなくなって、と声をかけてしまう。さぞ、さびしかろうな」
 あとで彦十に様子を見に行かせるくらいなら、やめればいいのに。
 
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