08.10.17放送

「引き込み女」

(鬼平犯科帳スペシャル)

Key Word : 表世界と裏世界の境目


 築地の鉄砲洲あたりで磯部の万吉を見かけたという情報が火盗改メにもたらされた。顔も広く腕も確かな万吉がいるということは、その近辺で盗賊一味が盗みを働く可能性が高い。そこで主立った密偵が築地界隈に派遣され見廻りをはじめた。その甲斐あって引き込みをつとめる女賊のお元を密偵のおまさが見つけたのだが・・・お元はおまさの知っている昔の姿からはかけ離れた、窶れ細った姿でたたずんでいたのだ。


 おまさは、そのお元の姿に違和感を感じながらも長谷川平蔵へそのことを伝え、平蔵もまた、一般の引き込み女とは異なるお元のふるまいや、あるいはおまさとお元の繋がりへの配慮に苦慮しながら、少しずつ、盗賊一味の網を狭めようと試みる。一方でお元は、自身の務めと身の上を天秤にかけ、ある決意を胸に秘めた。

 盗賊一味、駒止の喜太郎も動き出し、平蔵もまた捕り物の準備を整えつつある中、お元が先んじて行動を起こす・・・。


 情の深さ、芯の強さ、心揺れ動くさま。女性の心を中心に据えた作品は鬼平犯科帳の中にいくつもあり、というよりこの作品のテーマなのではないかと思うのですが。(おまさの平蔵への感情がその際たるもの?)ベテランの、ましてやお元のような生粋の引き込み女が想いを乱すのは、そう多くないでしょうか。


 盗賊の世界にある想いとは違う、堅気の、純な、細やかな想い。引き込み女だけは、表世界にある感情に触れることなしには存在し得ない、盗賊世界の住人の中でも特殊な役割です。

 あるいはそんな表世界に、お元自身はずっと憧れていたのかもしれませんね。書いてないけれど。


 一方、最後の最後に平蔵が一杯喰わされます。万吉本人にとってはこれからの盗人稼業に響きますから当然の仕置きなのでしょう。最後に記された平蔵の忌々しいさまも何となく理解できる気がします。でも、そのときおまさはどんな気持ちでいたのでしょう・・・何度読み返しても分からないのは、俺が引き込み女じゃないからか・・・やっぱり女じゃないからかなぁ。


 さて。今回の『引き込み女』は1990年に放送された内容を焼き直した作品ようです。おまさとお元、女性同士の絡み合いに焦点をあてて脚本を一新したとのことですが、どんな仕上がりになっているでしょうか。手ぐすね引いて放送日をお待ちいたします・・・ほら、半年余計に待たされましたからね♪(笑)




「引き込み女」,鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第19巻,第6話

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