98.5.13放送

「はぐれ鳥」


Key Word : 好敵手



長谷川平蔵の長男辰蔵。
平蔵の若かりし頃と比べて、それはしっかりした跡継ぎだと評判なのだが、
それは外づらである。

そんな辰蔵が行きつけの谷中「いろは茶屋」。うさぎこと木村忠吾も通い詰
めたことのある店で、辰蔵も病みつきになるのだった。


ある日辰蔵はこの店の女のお照から、薫という男装をした女に買われたとい
う告白を聞かされた。興味に駆られて女をつけてみた辰蔵だったが、白扇一
本であしらわれる。

この話をなぐさみ半分で父に話した辰蔵だが、聞いた平蔵は目の色を変える。
扇子は以前盗賊の押し入った小間物屋「丁字屋彦三郎」の商品であったのだ。




この薫こと森初子は、盗賊改メの同心である沢田小平次と、松尾喜兵衛
門下で剣術の稽古をしていた。昔、共に剣の道を極めた仲。
よみがえる昔の記憶と、そして今の境遇。

鬼平作品中にはもちろん、平蔵と高杉道場で競い合った仲間も登場する。
剣客として、町人として、父として、病人として、そして盗賊として。
しかしどんなときでも、共有した時間は消えることなく心の中に存在し
ている。


小平次は複雑な気持ちで平蔵に、香玉堂の捕り物に加わることを願った
のであろう。



ちなみに小平次は一度も初子に勝っていない。
平蔵と斬り合っても、勝てる相手と見込まれている切れ者の小平次。
その小平次が大刀、河内守国助。対する初子はただの脇差。

これだけハンデがあっても紙一重の差。この人強いよ、異常に。
おそらく鬼平史上、一番強い剣客かもしれない。


ところでこの話、原作は「白蝮」という題である。

薫の肌の白さと、お照をむしゃぶり尽くしてやせ細らせた、
その様子から付けられた題名と考えられる。

だから、何で「はぐれ鳥」なのだろうか・・・。
何度読んでもわからん。


鬼平犯科帳,池波正太郎,文春文庫,第12巻,第6話

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